
はじめに

前回の記事で、私は 「Slidocs(スライドックス)」という、少しばかり耳慣れない名前のフォーマットについて書いた。スライドのわかりやすさと、ドキュメントの正確さ。その二つを混ぜ合わせて、さっと理解したい人、さらに深掘りしたい人、その両方のニーズに対応出来る形式のドキュメントだ。
おそらく、あなたは記事を読みながらこう感じたはずだ。「よいかもしれない。でも、それを作る手間を考えると、気が滅入ってしまう」と。
その感覚は正しい。要約と詳細の両方を用意するなんて、そんな物理的な時間も精神的な余裕もありはしない。普通に考えれば、誰もやりたがらない。
しかし、時代は変わった。今は生成AIという名の、驚くほど有能なパートナーが入っている。
Slidocsを作るのに、気が滅入ることはない。面倒な構造化も、要約も、すべてAIに任せてしまえばいい。あなたはただ、言いたいことだけをAIに投げ掛ければいいのだ。
今回は、私が実際にSlidocsを書き上げるまでのプロセスを紹介しようと思う。
私が使ったのはGoogleドキュメントとGemini、シームレスで相性がいいからだ。もちろん、あなたが使い慣れた他のAIツールでも構わない。
2. 準備するもの

必要なのは最低限の道具と、どこへ行きたいかという意思だけだ。準備するものが増えるとそれだけも気が滅入るから、最小限に留めたい。
- Google ドキュメントおよびGoogleスライド
- Geminiで生成した文章を書き出し、このドキュメントをブラッシュアップする
- Geminiから直接アクセス出来るのも都合がいい(Google workspaceに接続が必要だが、Essentials Starterという無料版あり)
- スライドはドキュメントをビジュアル化するために利用する
- Gemini
- 無料版でも構いませんが、Google Workspace等の有償版でドキュメント内に統合されていると、よりスムーズに事が運ぶ
- 【重要】あなたの「言いたいこと」
- 完璧な文章である必要はない。箇条書きの、断片的な思考の欠片で十分だ。
道具が揃ったのなら、はじめよう。
⚠︎GeminiからGoogleドキュメントへアクセスさせるためには、ファイル添付をGoogle Driveからとするか、プロンプトから @Googleドキュメント とアプリケーションへの接続を明示的に指定する必要がある。

@Googleドキュメント
※注意 現在Geminiは日々進化し、仕様が不安定である。そのため、ここの説明ではGeminiからアクセス出来ない可能性もある。なお、現時点では @Googleドキュメントとの接続ではツールの選択ができない。
ステップ1:とにかく「思考の種」を書き出す

いきなりGoogleドキュメントを開いてはいけない。 真っ白なページは、緊張する。そこで立ち尽くして時間を浪費しないように、まずはAIとの「おしゃべり」から始めよう。
書きたいことや、モヤモヤしている疑問を、チャット欄に投げかける。「会議、わからん。論点は? 資料には書いてないじゃん。いや書いてあるけど、ぼやけてる。短時間で理解は無理。後で見返してもわからん。行間での意図が多過ぎ。なんとかならないか?」文法なんて気にする必要はない。ただ、思考を言葉にすればいい。
その後、AIから生成されるレスポンスに対して「論点を明確にしましょうなどのToBeの羅列ではなく、構造やフォーマットとして定義したいんだ」「そうそう、概要理解と詳細理解を同時に、しかも2つの資料を作らずにしたい」「社内もドキュメントのSaaS利用進んでいるから、それらを活用して・・・」
そうやって壁打ちを続けていると、次第に霧が晴れてくるはず。思考の断片が繋がり、輪郭を 見せ始めてくる。そうなれば、こちらのもの。AIにこう頼んでみるといい「今までの話を、言語化してまとめて」と。
そして、ここからが最も重要なフローだ。 AIが出力したそのテキストをGoogleドキュメントに出力して、必ず「あなた自身の手」で加筆修正すること。
これは次のステップで作る「骨子(目次)」ではまだない。あなた自身が、何を書きたいのかを認識するためのプロセスである。 AIの要約は優秀だが、あなたの意図の全てを汲んではくれていない。「ここは少し違う」「もっと強い言葉で言いたい」。そうやって赤を入れることで、曖昧だった思考が確固たる「認知」へと変わる。
生成AIに最初から最後まで書かせると、綺麗だけれどどこか他人行儀な文章になってしまう。 最後の一筆をあなたが加えることで、そのドキュメントは初めて「あなたの思考」となる。
【実践例】前回の記事の「種」
実際に、私が前回の記事(Slidocsの解説記事)を書いたときのモヤモヤ思考と、輪郭がはっきりした思考をお見せすることにする。まず、最初にAIに投げかけたプロンプトは、たったこれだけだった。
ミーティングで見せられる資料がまいど分かりにくいし、翌週には内容を忘れている。 資料を見返してもイマイチ思い出しきれない。もっとよい資料のあり方を考えたい。
その後のやりとりで、認知できた私のモヤモヤの正体は以下となる。
■記事のテーマ
生成AI時代の新しい資料フォーマット「Slidocs」の提案
■ターゲット
- 仕事で資料作成が多い人
- 「言った言わない」のトラブルに疲れている人
- スライド作りが苦手な人
■現状の課題(Why Now?)
- パワポ(スライド):行間が伝わらない。あとで見返しても意味不明。
- ワード(ドキュメント):文字ばかりで読む気が失せる。会議で読み上げると眠くなる。
- 両方作るのはコストが高すぎて無理だった。
■解決策(Slidocsとは)
- スライド(ビジュアル)とドキュメント(詳細)のハイブリッド。
- 構成:上部に「要約・図解」、下部に「詳細テキスト」。
- メリット:パッと見てわかるし、じっくり読めば誤解がない。AmazonのReading cultureを根付かせるのはすぐには無理。まずはもっと視覚的に理解しやすく脱落させない。
- このフォーマットと目的はSlidedocs®とは別物
■一番言いたいこと
- 「作るのが大変そう」と思うだろうが、今は生成AIがある。
- 構造化と要約はAIが得意な作業。だからコストは問題にならない。
- これからは「AIに素材を渡してSlidocsを作る」のが当たり前になる。
種は小さくても、そこには確かにあなたの思考が含まれてる。それを掘り起こし、明確化することからはじめよう。
ステップ2:AIに「骨子(目次)」を作らせる

骨組みがおかしなドキュメントは、あなたの思考を誤解させ、また無駄な質疑応答に疲弊してしまう。
Slidocsにおいて最も重要なのは「構造」である。
しかし、白紙の状態から「第1章、第2章……」と構成を考えるのは骨が折れる作業だ。そこで、AIという有能な構成作家に頑張ってもらおう。
ステップ1で思考を整理したGoogleドキュメントを添付し、Geminiに以下のプロンプト(指示文)を入力するといい。(もちろん、本文をチャット欄にコピペしても構わない。)
【プロンプト例:構成案の作成】
[ここにステップ1で作ったGoogleドキュメントを添付] ※Geminiがアクセスできるように、@Google Drive などでファイルを指定 指示: あなたは優秀な編集者です。添付したGoogleドキュメントの内容をもとに、会議資料の構成案(目次)を作成してください。 条件: * 会議参加者が論点を理解しやすい論理構成にすること。 * 最終的には意思決定するための流れにすること。
Geminiは数秒で、あなたの思考の塊を整理された目次へと変換するだろう。
出力された構成を見て、「少し違うな」と思えば、修正を指示する。ここでも納得のいく骨組みができるまで、AIと対話をする。それが思考の塊をあなたが伝えたいストーリーとしての目次として出来上がっていく大切な過程である。
修正内容によっては、Geminiが出力した構成案をGoogleドキュメントの「思考の種」の下に書き出し、自分の手で修正を加えるとよい。
チャット上でAIに何度も修正指示を出すよりも、自分で書き換えてしまったほうが早く、何よりあなたが手を動かした時にはじめて思考を深めることになることもあるだろうから。 納得のいく骨組みができるまで、対話して、手を動かす。それが肝である。
ステップ3:「詳細レイヤー(ドキュメント要素)」を執筆させる

しっかりとした骨格ができあがったら、次は肉付け。
ここでの「肉」とは、Slidocsにおける「詳細レイヤー(ドキュメント要素)」、つまり読み手がじっくりと読み込むための本文のテキストである。
ここでも、初手からあなたがキーボードを叩いて長文を書く必要はない。ステップ2で修正・確定させた目次(構成案)をもとに、AIに執筆を依頼するといい。このときGeminiならツールとして Canvas を選択しておくとよい。長い文章でも整形されたフォーマットは読みやすく、その後のGoogleドキュメントへのエクスポートも楽になるから。

【プロンプト例:本文の執筆】
[ここにステップ2で作ったGoogleドキュメントを添付] ※Geminiがアクセスできるように、@Google Drive などでファイルを指定 指示: 添付したGoogleドキュメント内にある「構成案」の各セクションについて、本文を執筆してください。 条件: * トーン&マナー:ビジネスパーソン向けの、論理的かつ熱量のある文体で。 * 各セクション、詳細な説明を記述すること(箇条書きではなく、文章で)。 * 「言った言わない」をなくすため、論理の飛躍がないように丁寧に説明してください。 * 参照した資料や文献があれば、参照元を示してください。
Geminiが生成を開始すると、画面上に文字が溢れ出してくる。あなたはそれをコーヒーでも飲みながら眺めていればいい。
しかし、ここで作業を終わらせてはいけない。
Geminiが出力したドキュメントをGoogleドキュメントに書き出すべきだ。 先ほどまでの「思考の種」や「構成案」が入ったドキュメントではなく、新しいドキュメントへ書きだそう。それらのエッセンスはすべて、今出力された本文の中に溶け込んでいる。これからは、この新しいドキュメントを、誰かの目に触れる「作品」に仕立て上げていくベースになる。
そして、必ず自分自身の手で加筆修正を行ってもらいたい。
最近、AIが書いた文章をそのまま右から左へ流す人を見かけるが、それは危険だ。自分で書いた(あるいは直した)言葉でなければ、本当の意味で内容を理解することはできない。 「ここはもっと具体的な事例を入れたい」「この表現は少し堅苦しい」。そうやって手を入れることで、初めてそのドキュメントはあなたの血肉となり、会議で質問されても自信を持って答えられるようになる。会議中に冷や汗をかきたくはないだろう?
ステップ4:「ビジュアル・レイヤー(スライド要素)」を抽出させる

今のままでは、あなたのドキュメントはただの「文字の壁」だ。正確だが、愛想がない。まるで電話帳のように、必要なことはすべて書いてあるけれど、誰も読みたがらない。
SlidocsをSlidocsたらしめているもの。それは、詳細なテキストの上に掲げられる「ビジュアル・レイヤー(要約と図解)」。ここは「読ませる」のではなく「見せる」場所。一目瞭然のインパクトが必要だ。
ここでは、Geminiとのチャット内のツール「Canvas」と、カスタマイズ機能である「Gems」を活用して、ドキュメントを一瞬でスライド化する術を説明しよう。
1. Gemsで「専属スライドデザイナー」を呼び出す
もしあなたがGeminiを使えるなら「Gems」でスライド作成専用のプロンプトを保存しておくと便利だ。 「箇条書きにして」だけでなく、以下のような「ビジュアル指示」を含めるのがコツ。また、統一感を見せるために色彩設計は重要なので、憶えておくといい。
- 強調表現: キーメッセージを「太字」や「括弧」で囲む。
- 色彩設計: 背景色、メインカラー(例えば、自社のコーポレートカラー(例: #1e3a8a))、アクセントカラーなどを指定する。
- 管理タグ: 「社外秘(CONFIDENTIAL)」や「決定事項」などのスタンプを入れる。
2. Canvasでスライド要素を生成する
ビジュアル指示を入れたGemsを呼び出したら、ビジュアル指示と以下のようなプロンプトを投げるとよい。その際、スライド形式であることを明示した方がよい結果が得られるだろう。
【プロンプト例:ハイインパクトなスライド化】
[ここにステップ3で作ったGoogleドキュメントを添付]
※Geminiがアクセスできるように、@Google Drive などでファイルを指定
指示:
添付ファイルに記載されたドキュメントの各セクションを要約して、スライドにしてください。
条件:
* 構造: 1行程度の「キーメッセージ(要約)」と、要約の中のワードや論理の説明や根拠が基本構成。
複雑な論理構造は図解、論理の対比や数字の比較は表などを用いるなど、情報が整理しやすい表現を用いる。
説明や根拠はリストやブロック構造など視覚的にわかりやすく配置する。
* 強調: 重要な単語は括弧で囲んだり、フォントを大きくしたり、太文字、アクセントカラーなどで強調する。
* 属性: 右上に「社外秘」のテキストボックスを入れること。
* デザイン意図: 忙しい役員が、この枠を見るだけで「Go/No-Go」を判断できる情報量に絞る。
* 表現: ドキュメントと同じ文体や言い回しにする。
* 出力: Googleスライドにエクスポートしやすい形式
Geminiが構成を出力したら、画面上の「スライドにエクスポート」ボタンを押してGoogleスライドに書き出す。 できたら、次に進もう。
3. スライドを手直しし、画像としてドキュメントに戻す
ここでもやはり、「あなたの手」を効かせて欲しい。これまでの自らの意思を込めたドキュメントに対して、 自動生成されたスライドは改行位置や強調具合など気になるところがあるはずだ。それこそあなたの魂を込める余地。Googleスライドを開き、デザイナーになったつもりで仕上げを行おう。
納得のいくスライドができたら、各ページを選択し、「ファイル > ダウンロード > PNG画像(.png 現在のスライド)」を実行、そして、その画像をGoogleドキュメントの対応するセクションの冒頭に貼り付けていく。
文字だけの愛想のない壁面が、鮮やかになる瞬間。 この「画像(要約)」と「テキスト(詳細)」の二層構造こそが、読み手の脳に最も優しいSlidocsの完成形となる。しかし、最後まで手は抜かない。次で最後のステップだ。
ステップ5:仕上げは「AIと人間によるチェック」

最後の仕上げ。それはこれまでのステップであなたやAIがやってきたことだが、これまではチェックは思考を明確にすること、ストーリーを納得させること、ドキュメントをあなたの言葉にすることなどが目的だった。最後に全体を通して、文章校正を目的にしたチェックを行う。目的外のことは、あなたもAIも見ていない。当然だ。だから最後までやりきろう。
さて、AIに校正のアシスタントを依頼しよう。目的通りの以下のプロンプトを使って、客観的な視点でドキュメント全体をチェックさせる。
【プロンプト例:最終校正とチェック】
[ここにステップ4でSlidocs化したGoogleドキュメントを添付] ※Geminiがアクセスできるように、@Google Drive などでファイルを指定 指示: 添付したドキュメント全体の校正を行い、修正案または指摘事項をリストアップしてください。リストアップは修正済みが表現できるようにチェックボックスにしてください。 チェック項目: 1. 誤字脱字: 明らかな入力ミスや変換ミスがないか。 2. 表記ゆれ: 「私/僕」「弊社/当社」などの人称や、固有名詞(製品名など)の表記が統一されているか。 3. トーンの調整: 全体を通して「ビジネスパーソン向けの信頼感ある文体」になっているか。砕けすぎたり、堅苦しすぎる箇所があれば指摘すること。 4. ハルシネーションの懸念: 数値データや具体的な事実関係について、文脈的に不自然な箇所や、事実確認(ファクトチェック)が必要と思われる箇所を指摘すること。
AIからのフィードバックを受け取ったら、それを参考にしながら、最後は必ずあなた自身の目で確認・修正を行う。
特に「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」や「熱量」に関しては、AI任せにできはしないだろう。 そこに魂を吹き込めるのは、世界であなただけなのだから。
まとめ:AIをパートナーによりよいものを早く

こうして、一つのSlidocsが完成したはずだ。
かかった時間は、おそらく以前の半分以下だろう。しかし、そのクオリティはきっと向上しているはずだ。
私たちはこれまで、資料を作るためにあまりにも多くの時間を「構成の組み立てで行ったり来たり」「推敲し、キーボードを叩き」「レイアウト調整に四苦八苦」に費やしてきた。
しかし、Slidocsと生成AIの組み合わせは、その苦役から私たちを解放すると同時に、さっと分かる、じっくり読んで分かる資料に昇華させることができる。
- 人間は「思考の種(言いたいこと)」を生み出す。
- AIがそれを「構造化」し、「ビジュアル化」する。
この分業こそが、新しい時代のスタンダードになりつつある。
明日の会議資料、さっそくこの方法で作ってみてはどうだろうか?
完璧な資料を作ろうとして一人で夜更かしをする必要はない。AIをパートナーにあなたの思考を見て分かる資料、深く理解できる資料をサクッと作り、さっさと寝床につくといい。




















